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2020.10.19

Go Toトラベルの目的を問う

 7月22日から始まったGo Toトラベル事業は9月15日までで約1689万人泊、割引支援額735億円が利用された。これには当然、過去最高の人出だったシルバーウィーク(9月19〜22日)4日間の利用実績が含まれていない。さらに、10月からGo Toトラベル事業に東京発着が加わり、週末ごとに国内旅行需要が飛躍的に伸びた。
 Go Toトラベル事業による国内旅行需要の本格回復と誰もが見ていたが、思わぬ事態が発生した。国内大手のオンライン・トラベル・エージェント(OTA)を中心に、各社が35%の割引率を独自に下げたり、一旦停止したことで、Go Toトラベル事業の利用者に戸惑いが広がり、混乱が生じた。
 国内OTAなどがこうした措置に踏み切った理由は、個々に割り当てられていたGo Toトラベル事業の使用額が上限に達した、もしくは近づいたことにある。観光庁は、各社の限度額を前年実績に基づいて割り当てたとしているが、東京が対象に加わったことで、想定以上に国内OTAに宿泊予約が集中した。
 一方で、旅行会社は限度額に余裕があり、OTAが限度額に達すれば、旅行会社のサイト、または第三者機関のサイトから直接に登録宿泊施設のサイトに行けば予約できるのだが、OTAの割引率削減や一旦停止が問題視されたことで、観光庁はOTAに対する限度額を追加増額することになった。
 Go Toトラベルの事業予算額は1兆3000億円と、かつてない規模の観光復興予算が計上された。この中から運営委託費の1895億円を除くと約1.1兆円がGo Toトラベルの割引支援に充当される。これを使って、Go Toトラベル事業を来年1月31日まで実施し、その後の延長も取り沙汰されていた。
 加藤勝信内閣官房長官は10月12日の会見で、Go Toトラベル事業支援の予算積み増しについて、「東京発着の旅行が追加された10月1日以降の売れ行きが一部の旅行会社で当初の想定を大幅に上回っている」と述べ、予算増額を示唆した。
 これを受けて、翌13日に赤羽一嘉国土交通大臣は、「Go Toトラベルは宿泊35%、地域共通クーポン15%、合計50%の割引支援の方針はしっかり堅持していく」として、宿泊代金の35%割引を堅持し、割引額の引き下げは認めない方針を表明した。
 なぜ、これほどまでにOTAに予約が集中したのか。赤羽大臣は「利用者目線の公正さが最優先」として、「OTAもリアルエージェントも直販もあり、仮置きで販売計画を出したが、結果的にどの事業者が販売を増やしたか、営業的な努力も認めなければならない」として、販売を伸ばしている事業者に予算配分を厚くすることは市場原理との見解を示している。
 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う「ステイホーム」で、大手ショッピングサイト、食事のデリバリーサイトなどが売上を伸ばす中で、Go ToトラベルのOTA、Go Toイートのグルメサイトが利用実績を伸ばしている。営業努力というよりも時流に乗ったという方が正しいのではないか。
 赤羽大臣は「利用者への公正さ」を強調するが、「旅行事業者の公正さ」はどうなのか。OTAに追加配分したことで、リアルエージェント、とくに中小旅行会社にそのしわ寄せはこないか。赤羽大臣は「予算が直ちに枯渇する状況ではない」と語る。
 しかし、今後その影響が多くの旅行会社に及べば、菅義偉首相が言う「900万人の旅行関係者が瀕死の状況」を救うためという事業者目線の目的はどうなるのかと問いたい。
 最初から割引支援額の配分が決まっていたのなら、上限額に達したOTAから旅行会社サイト、宿泊施設直販サイトへの誘導を利用者に告知すれば良かったのではないか。割引率は同じであり、そのほうが利用者、事業者ともに納得できる。決められた配分で予算を使い切ってから、追加予算を検討するべきではないか。(石原)