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2020.02.17

旅行を萎縮させない

 日本発着クルーズを運航するダイヤモンド・プリセンスから新型コロナウイルスの感染症例が出て、連日、報道を賑わせている。日本を含む各国が中国からの旅行者を制限し、一方で、日本は中国本土、香港、マカオの感染症危険情報をレベル2に引き上げたことで、当該地域のツアー催行はほぼ中止された。逆に、感染者が拡大する日本を観戦国に指定して、渡航制限を科す国々も出始めている。
 新型コロナウイルスの報道が加熱することに伴い、感染することの心配から旅行を手控える傾向が既に出始めている。中国はもとよりアジアを中心に、海外旅行が急激に冷え込んできた。
 SARSやMARSの時と同様に、ビジネス渡航が減退し、教育旅行のキャンセルが始まる。各デスティネーションに問い合わせると、法人の団体旅行、修学旅行のキャンセルが目立つという。感染が世界に広がるとともに、日本人の海外旅行の需要減退が懸念される。
 SARSの2003年の日本人海外旅行者数は1330万人。前年の1652万人から300万人以上ダウンした。2003年はSARSとともにイラク戦争も追い打ちを掛けた。
 また、SARSの時代と違って、今回の新型コロナウイルスは訪日旅行に大きな影響を及ぼしている。言うまでもなく、日本のインバウンド最大市場の中国は既に渡航制限が掛かり、大きく需要が縮小している。韓国とは政治問題で激減傾向が続いている。感染の広がりとともに、他のアジア諸国、欧米豪の市場からの需要減退は避けられないかもしれない。
 2019年の訪日旅行者は3188万人で、SARSの2003年は521万人だった。およそ6倍の数字である。それが関係しているのか分からないが、今回の新型コロナウイルスの感染は国内旅行にも影を落としている。国内旅行というよりも外出の手控えが起きている。
 例えば、有数の繁華街である新宿、銀座を歩いても、やはり、いつもより人の姿は少ない。国内観光地も同様なのではないか。SARSの時は、海外旅行から国内旅行にシフトした。前述の団体旅行、教育旅行も海外がキャンセルされて国内旅行が増加した。
 今回の新型コロナウイルスは、海外旅行、訪日旅行、国内旅行全てにわたり影響を与えている。その意味では、旅行・航空・宿泊・観光施設を含むツーリズム産業全体に影響を及ぼすとみられる。
 だが、感染者は増えている一方で、治癒・退院者も増加している。その点をもっと強調したい。さらに言えば、新型コロナウイルスによる死者は2月12日現在で、中国を除く海外では1名だ。
 日本では、こうした環境になるとプロモーションを自粛する傾向にある。訪日旅行なら中国以外のアジア、欧米豪市場に対してプロモーションを自粛する必要はない。2月12日現在で日本国内での感染者は200名を超えているが、そのうち174名がクルーズ内の感染者であり、治癒者も1名いる。そうした事実を丁寧に説明してプロモーションを継続する。
 また、海外旅行は各国は日本市場に対してのプロモーションを積極的に展開している。例えば、タイは日本人観光客誘致拡大に向け、スポーツツーリズムを切り口とした新たなプロモーションを展開する。
 2月10日の記者会見で来日したタイ観光スポーツ省のナピントーン・シーサンパーン副大臣は「日本からは毎年多くの観光客がタイに訪問してくれており、年々訪問客数や観光消費が拡大している。今年は日本でオリンピックが開催されることからさらなる訪日タイ人観光客の増加を期待している」と述べている。
 また、シンガポールも現在、MICE優待プログラム「INSPIRE」を展開しており、日本市場に向けて、MICE需要の拡大を図る。
 タイ、シンガポールなどが逆風の中でも、日本市場に対してプロモーションを展開していることに対して、旅行業界は応える必要がある。日本はこうした時に自粛する傾向にあるが、状況を踏まえて、パートナーとプロモーションを進めるべきだ。(石原)