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2020.02.03

新型コロナウイルス感染拡大

 昨年12月31日の大晦日に、世界保健機関(WHO)に報告された新型コロナウイルスは、約1カ月の間にまたたく間に世界中に広がり、1月28日の段階で、中国国家保健衛生委員会によると、肺炎の確定症例数は、既に退院した者を含めて合計5974症例に増加した。このうち、重症患者は31人、死亡患者数は132人に増え、疑い症例は9239人となり、この号が出る2月3日には1万人に超えることが予想される。
 感染者は発症した中国武漢市を中心に中国全土、香港・マカオ・台湾、そして日本を含むアジアから世界中に広がりを見せている。
 中国政府は発生源の中国武漢市を閉鎖し、感染拡大の防止に努めているが、春節時期の中国では武漢市から中国全土、アジア、世界中に旅行し、感染は拡大しつつある。
 2003年に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)と比べると、新型コロナウイルスの感染速度は早い。SARSの時と違うのは、中国が経済成長し、世界最大のアウトバウンド市場に成長したことで、世界に与える影響は大きい。
 SARSは2002年11月に感染が報告され、2003年7月にWHOから終息宣言が出された。約9カ月にわたるSARS感染で感染症例は37カ国・地域に8096人が報告された。WHOはSARSを「世界規模の健康上の驚異」と表現、渡航中止の勧告も発表した。
 新型コロナウイルスの影響をアウトバウンドで見ると、SARSを例にするなら日本人海外旅行者は2002年の1652万人から2003年は1330万人に約320万人ダウンした。とくに、当時は日本から中国への旅行者が多く、中国を中心に香港・台湾、アジアがSARSの影響を大きく受けた。
 2019年は日本人海外旅行者数は2008万人と初めて2000万人を超え、いざこれからという時期だけに先行きが心配される。とくに、2020年度は中国を中心に青少年交流を促進する計画だが、教育旅行はパンデミックに最も影響を受けやすく、キャンセルが懸念される。
 また、中国へのビジネス渡航も自粛が始まっている。武漢は約1100万人の大都市で、日本企業も数多く進出している。日本政府は現地に取り残されていた在留邦人らを日本に帰国させるために封鎖中の武漢国際空港へチャーター便を運航し、在留邦人が帰国させた。
 武漢から中国全土に感染が広がる中では、中国への旅行にブレーキが掛かることはやむを得ないが、この先、近隣アジアへの広がり、さらには欧米でも感染症例が出ていることから、海外旅行全体に影響が及ぶ可能性もある。
 SARSの時と違うのは、訪日インバウンドへの影響である。2020年は訪日4000万人の目標を官民一丸となって推進する年であり、その最大市場国が言うまでもなく中国だ。
 とくに、新型コロナウイルスの感染拡大と春節(旧正月)が重なり、この時期に中国から世界、とくにアジア、日本へ多くの中国人が海外旅行に出かける。とりわけ、中国からの最大の訪問国が日本である。
 観光庁によると、昨年の春節に来日した中国人観光客数の統計はないが、昨年2月に訪日した中国人観光客数は、月間で約72万人となっている。
 中国政府は、新型コロナウイルスの海外への感染拡大に歯止めを掛けるため、中国から海外を訪れる団体旅行の催行中止を通知した。また、個人向けにエアとホテルをセットで販売するパッケージ商品についても、販売や催行を中止するよう通知を発出した。
 前述の日中の青少年交流の促進だが、中国からの教育旅行の実施が難しくなり、日中間のイベントの開催にも影響が出ているようだ。一日も早い終息を願いたいところだが、SARSの事例を見る限り、半年は影響が避けられないと見られる。
 7月24日からは東京オリンピックが始まる。中国からは大デレゲーションが参加し、中国から多くの旅行者の訪日も見込まれる。東京オリンピック・パラリンピック前の終息を願わずにはいられない。(石原)