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2019.07.29

ハワイ島の観光回復

 昨年5月のキラウエア火山の噴火によるハワイ島の観光への影響は、米国からの旅行者は回復しているが、日本からの旅行者は依然として回復にまでは至っていない。
 ハワイ州観光局(HTJ)とハワイ島観光局では、需要回復の遅れから、2019年の日本人旅行者を当初の20万人から下方修正し、17万人と予想した。そして、本来の目標である年間23万人を2020年に設定し、完全回復をめざす。
 現地のガイドに聞くと、昨年5月のキラウエア火山の影響で、日本からの旅行者数は大きく落ち込み、キラウエア火山のオプショナルツアーを手掛けていた50年の歴史を持つ会社が廃業に追い込まれたという。
 災害などが海外で発生してからの回復は、欧米なら3カ月後あたりから回復に向かうが、日本人は災害が起きている所に観光で行くことにためらいがあり、一般的に1年程度かかると言われる。したがって、この夏休みの繁忙期を経て、ここから回復に向かうことが期待された。
 ところが、ここに来て、ハワイ島でキラウエア火山と並ぶ人気オプショナルツアーのマウナケア頂上星空観測が中止となる事態が起きている。
 周知のように、各国出資による新望遠鏡「TMT」(Thirty Meter Telescope)国際天文台の建設が、7月15日から始まることが計画されていた。日本はTMT望遠鏡本体構造の製作と、光を集める主鏡分割鏡の製作という重要な役割を担う。
 ところが、TMT建設への反対運動で、頂上へのアクセスが封鎖され、頂上へ行くことができなくなった。日本からの旅行者も当然ながら多くがオプショナルツアーをキャンセルしている。
 現地で聞いても、今後の解決策が全く読めない状態で、この状況が長引くと、日本向けのツアー会社の経営に影響が出ることが懸念されている。
 図らずも、こうした状況を受けて開催された日本の旅行業界と現地サプライヤーとのジャパン・ハワイ島サミットでは、新たな旅行商品造成に向けて活発な議論が交わされた。その焦点となったのは、プロダクトの増加だ。
 日本人旅行者の観光の中心はカイルア・コナだが、日本人のハワイ移民のルーツともいうべきヒロとコナをつなげることで、日本人旅行者の観光領域を拡大する。このために、旅行会社7社で、コナとヒロをつなぐシャトルなどの共同事業の実施も提案された。まだ、アイデア段階だが、ぜひとも検討してほしい。
 昨年5月のキラウエア火山の噴火が一旦収まり、ボルケーノ・ハウスやスチーム・ベントからは、赤い溶岩流は見られない。そこで、ハワイ島観光局では、5月に流れ出た溶岩跡地の見学ツアーの可能性を検討している。
 今回の噴火で死傷者は出なかったものの、住宅が溶岩流に飲み込まれた被災者はいる。こうした人々は危険地域を承知で住んでいた人々だが、観光で復興することを計画しており、行政側と交渉中にあるという。今後の展開次第では、レイラニエステーツなどの被災地が新たな観光素材になる可能性はある。
 日本でも東日本大震災以降、観光で被災地を支援する取り組みが実施されている。物見遊山ではなく、被災地を訪ね、支援することが復興につながるとして行政も力を入れている。
 ハワイ島は、島全体が観光の魅力に溢れている。日本と最も縁の深いハワイ島が観光の完全回復を目指している。せっかく就航した日本−コナ線を維持し、ハワイ島の観光を持続、成長させることが日本とハワイ旅行関係者の使命であり、そのためにもハワイ島の観光リカバリーに、日本とハワイの観光関係者が一致協力して、完全回復に取り組む必要がある。(石原)